京浜地区の精神科を受診した在留外国人患者の実態と臨床的特徴 ~ 若年者が適切な受診につながっていない可能性が明らかに ~

2020/12/04

京浜地区の精神科を受診した在留外国人患者の実態と臨床的特徴  若年者が適切な受診につながっていない可能性が明らかに

東邦大学、済生会横浜市東部病院、川崎市立川崎病院、松蔭大学、NPO法人MAIKENらの研究グループは、厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業「地域特性に対応した精神保健医療サービスにおける早期相談・介入の方法と実施システム開発についての研究」(研究代表者 根本隆洋)において、精神科を受診した在留外国人患者の背景と臨床的特徴および今後の課題を、京浜地区における多施設研究により明らかにしました。

この成果は、2020年12月3日に国際学術誌「BMC Psychiatry」に掲載されました(https://rdcu.be/cbDeL)。

発表者名

田久保 陽司     (東邦大学医学部精神神経医学講座 医員)

根本 隆洋         (東邦大学医学部精神神経医学講座 准教授)

岩井 桃子         (東邦大学医学部精神神経医学講座 臨床心理士)

鹿島 美納子     (川崎市立川崎病院精神・神経科 副医長)

山口 英理子     (東邦大学医学部精神神経医学講座 医員)

丸山 昭子         (松蔭大学看護学部 教授)

三浦 左千夫     (NPO法人MAIKEN 理事長)

齋藤 寿昭         (川崎市立川崎病院 精神・神経科 部長)

辻野 尚久         (済生会横浜市東部病院 精神科 部長)

水野 雅文         (東邦大学医学部精神神経医学講座 教授)

発表のポイント

  •  京浜地区の主要3病院を受診した在留外国人患者の人口統計的および臨床的特徴を調査しました。
  •  総患者に占める在留外国人患者の比率(1.4%)は、同地区の在留外国人の比率(4.4%)よりも低い結果となりました。
  •  本邦在留外国人の年齢分布が20代をピークとするのに対して、本研究の外国人患者は40代後半および50代前半をそのピークとし、乖離がみられました。
  •  文化的適応に加えて年齢的にも精神疾患の高リスク群であるといえる若年在留外国人が、医療機関に適切にアクセス出来ていない可能性が示唆されました。
  • コロナ禍において、本知見を踏まえた、より速やかな在留外国人や技能実習生のメンタルヘルスへの対応が必須であると考えられます。

◆ 発表概要

日本における在留外国人数は近年増加を続けています。母国を離れた生活は、言語や文化の違いなどにより様々な精神疾患のリスク因子となります。本邦において精神科を受診する在留外国人の地域調査はこれまで少なく、その特徴を明らかにするため京浜地域の主要3病院の精神科を受診した在留外国人患者を対象として、出生国・地域、使用可能言語、通訳利用、受診経路、診断、転帰などについて、診療録を用いた多施設調査を行いました。

精神科を受診した在留外国人患者の割合(1.4%)は、京浜地区在留外国人の割合(4.4%)と比較して、低い結果が得られました。年齢別にみると、本邦の在留外国人は若年者をピークに分布するのに対して、本調査の在留外国人患者は40・50代をピークとし、年齢分布に乖離がみられました(図1)。この結果から、文化的適応に加えて年齢的にも精神疾患に対して高いリスクを有していると考えられる若年在留外国人が、適切な医療サービスにアクセスできていないことが示唆されました。本邦の社会情勢を踏まえて今後も増加が予想される在留外国人においても、そのアクセスと利用が容易な「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築が不可欠であるといえます。

◆ 発表内容

本邦における在留外国人数は増加を続けており、流入人口はOECD加盟国中で4位にまで上昇し、現在282万人が居住しています。国際的な調査において、移民では異文化への適応や言語の問題などの様々な問題が生じ、種々の精神疾患(統合失調症、ストレス関連障害、気分障害、依存症など)発症のリスクになることが明らかにされてきていますが、日本においては、在留外国人のメンタルヘルスや受療に関する地域研究は少なく、特に外国人が多く居住する大都市圏での多施設調査はみられませんでした。

本研究は、2016年4月から2019年3月までの3年間に、京浜地区のそれぞれのエリアの主要病院である東邦大学医療センター大森病院、川崎市立川崎病院、済生会横浜市東部病院の精神科を受診した合計205名の在留外国人患者を対象に、診療録を用いた後方視的調査を行い、出生国・地域、使用可能言語、通訳使用の有無、受診経路、精神科診断、転帰などを明らかにしました。

3病院の精神科を受診した在留外国人患者は205人で、その平均年齢は45.8歳、性別比は1:1.9(男性:女性)でした。全患者数に対する在留外国人患者の比率は1.4%で、同地区在留外国人の比率(4.4%)に比べて低値となりました。年齢別にみると、本邦の在留外国人は若年者をピークに分布するのに対して、本調査の在留外国人患者は40・50代をピークとし、年齢分布に乖離がみられました。出生国・地域は中国(35.1%)が最も多く、フィリピン(18.5%)、韓国(16.1%)、ブラジル(4.9%)と続きました。22.9%の患者は日本語が話せなかったため、診察時に家族や友人(17.1%)、または医療通訳者(5.4%)を介した通訳を要しました。精神科診断は神経症(ICD-10コードF4)が24.4%と最も多く、異文化におけるストレスが考えられました。本研究から京浜地区における精神科受診在留外国人患者の特徴が明らかになり、中でも精神疾患に対して高いリスクを有する若年在留外国人が、適切な医療サービスにアクセスできていないことが示唆されました。また、医療通訳の不足など、在留外国人患者に対応した精神医療サービスは未だ不十分であることがわかりました。

私たちは本研究事業で、地域特性に対応したメンタルヘルスとそのケアシステムの在り方について、全国4か所における調査や実践活動を通じてその検討を続け、メイシス(MEICIS: Mental health and Early Intervention in the Community-based Integrated care System)とプロジェクトを名付けています(https://meicis.jp/)。今後、全国各地において「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築が進められますが、早期相談・支援とともに、在留外国人もアクセスしやすいシステムの検討と具体化が欠かせないといえます。また、コロナ禍においては、在留外国人や技能実習生のメンタルヘルスに向けた、本知見を踏まえたより早急な対応が必須であると考えられます。

◆ 発表雑誌

雑誌名:「BMC Psychiatry」(2020年12月3日)

BMC Psychiatry. 2020 Dec 3;20(1):569. doi: 10.1186/s12888-020-02951-z.

論文タイトル:Demographic and clinical characteristics of foreign residents who visited hospitals for mental health problems in Japan: A multicenter study in a metropolitan area

著者:Youji Takubo, Takahiro Nemoto*, Momoko Iwai, Minako Kashima, Eriko Yamaguchi, Akiko Maruyama, Sachio Miura, Hisaaki Saito, Naohisa Tsujino, Masafumi Mizuno(*責任著者)

DOI番号:10.1186/s12888-020-02951-z

論文URLhttps://rdcu.be/cbDeL

雑誌URLhttps://bmcpsychiatry.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12888-020-02951-z

図1. 京浜地区3病院精神科を受診した在留外国人患者と本邦在留外国人居住者の年齢別分布

3病院を受診した在留外国人患者数を年齢別に棒グラフで示しています。

また、本邦の在留外国人数(法務省, 2019年)を点線で示しています。

TUO:東邦大学医療センター大森病院

KMH:川崎市立川崎病院

SYT:済生会横浜市東部病院

Foreign residents in Japan:本邦在留外国人

Age:年齢

Foreign patients (N):在留外国人患者数

Foreign residents in Japan (N):本邦在留外国人数

 

以上

このページの先頭へ戻る