厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業である「地域特性に対応した精神保健医療サービスにおける早期相談・介入の方法と実施システム開発についての研究」(研究代表者 根本隆洋)における京浜地区サイトから、長期化する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下において、産後の女性の自傷念慮が悪化していることを明らかにしました。
この研究成果は、2022年10月10日に国際学術誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences」にLetter to the Editorとして掲載(publish)されました。
◆ 発表者名
田久保 陽司 (東邦大学医学部精神神経医学講座/済生会横浜市東部病院精神科 医員)
辻野 尚久 (済生会横浜市東部病院精神科 部長)
相川 祐里 (済生会横浜市東部病院精神科 公認心理師)
吹谷 和代 (済生会横浜市東部病院精神科 公認心理師)
岩井 桃子 (東邦大学医学部精神神経医学講座 公認心理師)
内野 敬 (東邦大学医学部精神神経医学講座/厚生協会東京足立病院 医員)
伊藤 めぐむ (済生会横浜市東部病院産婦人科 産科部長)
秋葉 靖雄 (済生会横浜市東部病院産婦人科 レディースセンター長)
水野 雅文 (東京都立松沢病院 院長)
根本 隆洋 (東邦大学医学部精神神経医学講座 教授)
◆ 発表の背景と結果
COVID-19流行以前より、日本における周産期自殺率は諸外国よりも高いことが報告されています。さらに、COVID-19流行中には家庭内暴力や女性の自殺者数が増加していることが報告されていることから、コロナ関連のストレスが、周産期の女性により深刻な影響を及ぼしている可能性が危惧されます。
私たちは2020年末までのデータを用いた前報論文(※)において、COVID-19 流行中はエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS) の不安に関連する項目の平均得点が悪化していることを明らかにしました。しかし、2020年以降もCOVID-19の流行は収束することなく、長期化していることから、産後女性のメンタルヘルスにもさらなる変化を及ぼしている可能性が考えられました。そこで、2021年末までのEPDSのデータを加えて解析することとしました。その結果、自傷念慮(自分自身を傷付けるという考え)を測定しているEPDS項目10の平均得点が悪化していることが示されました。自傷念慮は希死念慮や自殺関連行動のリスク因子であることが指摘されており、自殺予防の観点からも早期の対策が必要であると考えられました。
◆ 発表のポイント
- COVID-19流行前後(2017年4月~2021年12月末)に済生会横浜市東部病院で出産された女性5,143名を対象として、産後1か月健診時の「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」の得点を比較しました。
- 自傷念慮を測定しているEPDS項目10の2021年の平均得点が、COVID-19流行前(2017年、2018年、2019年)の3郡と比較して有意に上昇していました。
- コロナ渦で高不安状態が続いていることや、長期化による様々な社会的要因によって自傷念慮が悪化している可能性があると考えられました。
- 本研究の結果から、周産期の自殺対策が喫緊の課題であり、地域の保健や行政機関とも連携した地域包括的ケアシステムの構築が必要であると考えられました。自傷念慮は精神疾患を背景にして生じることが多いため、周産期の精神疾患を早期に発見し、介入していく必要性がより高まっていることが示唆されました。
◆発表論文
Youji Takubo, Naohisa Tsujino*, Yuri Aikawa, Kazuyo Fukiya, Momoko Iwai, Takashi Uchino, Megumu Ito, Yasuo Akiba, Masafumi Mizuno, Takahiro Nemoto(*責任著者):Changes in thoughts of self-harm among postpartum mothers during the prolonged COVID-19 pandemic in Japan. Psychiatry and Clinical Neurosciences 76: 528–535, 2022
DOI:10.1111/pcn.13451
URL:https://doi.org/10.1111/pcn.13451
◆参考資料(前報論文※)
URL:https://bmcpregnancychildbirth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12884-021-04331-1