MEICISについて

目的

本研究プロジェクトの目的は、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の理念のもとで、わが国の保健医療体制で実施可能な、早期介入時から各地域内で連携し資源を適切に活用できる仕組みを提案・検証することです。私たちが地域ケアおよび早期介入の双方の領域で研究・実践を行ってきたノウハウを活かして、地域特性を考慮した複数のモデル地域を設定し、地域を問わず通底する理念、利用手法やツールとともに、地域特性を取り入れた積極的な早期介入の在り方を、以下の下記の3つの点を踏まえて検討と実践を行います。

  1. 精神障害に対応した地域包括ケアシステム
    精神疾患の社会的な損失が世界的にも強調される中、わが国でも5疾病5事業として精神科医療連携体制の構築が求められ、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」を理念とした、重層的な連携による支援体制の構築が進められています。
  2. 早期介入の社会実装方法の検討
    わが国の精神医療保健施策は入院から地域ケア中心型への移行を促進していますが、サービスを地域で支えていくには、精神障害の顕在発症もしくは重症化を防ぎ、高水準での社会包括を可能にする「早期介入」の概念を取り入れ実践する必要があります。その重要性は世界的に広く認識され、各国でガイドラインも作成されつつあります。一方で、サービスの提供体制については、医療供給の違いや精神医療に対するスティグマ、文化・社会背景差を考慮した、わが国で実施可能なシステムの確立が求められています。
  3. 地域特性に対応した早期介入のシステム
    社会実装においては、都市への人口・機能集中、地方の人口減少、少子高齢、社会的格差などの「地域差・地域特性」を考慮した提案が不可欠であり、これらを反映するモデル地域の設定やフィールドワークによる課題の抽出と対応策の検討が喫緊の課題です。

計画

以下のことを速やかに順次行っていく予定です。

  1. モデル地域の選定と実態調査
    地理的条件や人口動態が異なり、本邦における地域類型を反映する4地域(①足立区、②秋田県、③所沢市、④京浜地区)をモデル地域として選定し、精神保健医療サービスを介した精神障害の早期段階・メンタルヘルスに関する利用事例などの実態調査を行います。
  2. モデル地域でのメンタルヘルスおよび早期介入に関する実践
    各地域の特性を踏まえた早期対応・介入方法として、①人口密集地域(足立区)ではコミュニティの中に対応機関を設置し地域連携の拠点とする、②過疎地域(秋田県)では遠距離・交通手段の問題などによる対応機関へのアプローチの困難に対して、遠隔通信システムを用いた連携やサービスの提供、③郊外住宅地域(所沢市)では訪問やアウトリーチも取り入れる、④広域医療・経済・文化圏(京浜地区:大田区、川崎市、横浜市)における問題を踏まえた実践、などを検討・開発します。
  3. 地域資源マップの作成
    精神保健医療従事者が相談者に早期対応する際などに有用な地域資源マップを作成します。
  4. 具体的支援方法の確立
    各地域における支援システム利用事例の検討を行うとともに、具体的支援手法のフローチャートを作成します。
  5. 政策提言
    地域特性に対応した地域包括的早期介入の政策提言をまとめます。また、支援ツール・システムを用いて精神保健医療従事者への研修を開催します。
研究本部:東邦大学
  • 足立区

    大都市対面型モデル

    豪州の専門機関をつなぐワンストップケア「headspace」を参考とし、人口密集を活かした対面型の支援を行います。詳しくはこちら

    秋田県

    地方過疎地ICTモデル

    ICTを用いた双方向性の会議、遠隔相談を可能とする通信システムなどを用いたシステムを開発します。詳しくはこちら

    所沢市

    都市近郊アウトリーチモデル

    健康支援、受診調整なども取り扱い、広範囲の早期介入を実践。地域連携も用いた手法とシステムを開発します。詳しくはこちら

    京浜地区

    広域医療圏モデル

    行政・医療圏を超えた相談・受診の到達経路を調査。外国人を包含した地域ケア・早期介入の検討、実践をします。詳しくはこちら

「にも包括」への早期相談・支援の導入

モデル地域の設定

地理的条件や人口動態が異なり、わが国における地域類型を反映する4地域。

大都市対面型モデル(東京都足立区)

研究分担者:田中邦明

東京都精神科医療地域連携事業などにおいて実績のある東京足立病院を拠点とし、人口密集・流入地における状況と特徴を検討します。同院は同事業において区東北部における各関係機関の「顔の見える関係」の構築に取り組んできたほか、東京都ひきこもりサポートネットへの協力などの実績があります。早期介入の中心的課題である若年者のメンタルヘルスへの新たな取り組みとして、人口密集を活かした対面型の支援を行います。地域における間口の広い(universal)早期相談・支援について、医療・福祉・教育などの専門機関をつなぐ拠点としてワンストップケアを実現している豪州の「headspace」を参考として、システムの開発を行います。

地方過疎地ICTモデル(秋田県)

研究分担者:清水徹男

県全域を対象とし秋田県精神保健福祉センターを拠点とします。同県は広大な山地と全国最大の人口減少率で知られ、若年人口の流出も多く全国に先駆けた深刻な地方過疎問題に直面しています。従来型のサービス提供が今後さらに困難になり、その対応策につき検討する必要があるといえます。同センターは、ひきこもり相談支援センターを運営し、ひきこもりの当事者と家族に対する早期介入の精力的な取り組みを行ってきました。地勢及び全域が豪雪地帯指定の気候的特徴、医師の県内偏在などを考慮した際に、ICTを用いた遠隔相談サービスの構築が望まれ、双方向性の会議や相談を可能とする通信システムなどを用いたシステムを開発します。

都市近郊アウトリーチモデル(埼玉県所沢市)

研究分担者:藤井千代

国立精神・神経医療研究センターが隣接するベッドタウン所沢市で行う、精神障害者アウトリーチ支援事業と連携して調査を行います。同事業は身体・精神における健康支援、受診調整なども取り扱い、広範囲にわたる早期介入を実践しています。ケアの目の行き届く住宅地モデルといえます。充実した社会資源とマンパワーのもとで、地域連携とともにアウトリーチも用いたアクティブな早期介入の手法とシステムを開発します。

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広域医療圏モデル(京浜地区)

研究分担者:辻野尚久、研究代表者:根本隆洋

東邦大学医療センター大森病院、済生会横浜市東部病院、川崎市立川崎病院を拠点とします。位置する行政区は異なるものの、地勢的特徴や交通網のつながりなどにより、行政・医療圏を超えた相談・受診の状況がみられ、相談や受診の到達経路を調査します。また、多数居住する外国人を包含した地域ケア・早期介入の体制についても検討と実践を行います。

都市部自治体主導モデル(埼玉県川口市)

研究代表者:根本隆洋

川口市は東京のベッドタウンとして知られ、年齢別人口分布は日本全国の分布に概ね一致し標準的な近郊都市の特徴を有しています。15~30歳の人口は約11万人で、AYA(思春期・若年成人)世代の若者のメンタルヘルスおよび精神科早期介入は重要課題であり、同市が早期相談支援事業を令和4年度から開始することとなり、私たちは厚生労働科学研究MEICISで行ってきた「SODA」のノウハウを十分に活かし、それを受託しました。①相談事業所内の施設準備、②人員配置と育成、③関係諸機関や当事者団体などへのお知らせと協力体制の構築、④ホームページやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の開設、⑤事業を通じたニーズ・実態調査、⑥事業の導入と相談業務に関する詳細な記録などを行いました。また、同市は在留外国人が約4万人、外国人世帯が約2万世帯あり、在留外国人もアクセスしやすいサービスを構築する必要があり、MEICISで行ってきた在留外国人相談事業の知見を事業に活かしました。

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